東京都大田区東急池上駅前にある池上駅前城南歯科の院長、矢端恆秋です。今回は、「義歯の調整はなぜ必要?適切な頻度と長く快適に使うためのポイント」についてお話をしていきます。
義歯(入れ歯)は、歯を失った後の食事や会話を支える大切な治療法です。しかし、作った直後はぴったり合っていても、時間の経過とともに少しずつ合わなくなってくることがあります。「痛い」「浮く」「噛みにくい」といった不快感が出るのは、その調整が必要になっているサインです。この記事では、義歯の調整がなぜ必要なのか、どのくらいの頻度で通院すべきなのか、そして快適に長く使うためのポイントについて、歯科医師の立場からわかりやすく解説します。
目次
- 義歯の調整が必要になる理由とは
- 義歯が合わなくなるメカニズム
- 調整の頻度と通院の目安
- 義歯を長持ちさせるための工夫
- 痛みや違和感を放置するとどうなるか
義歯の調整が必要になる理由とは
義歯の調整が必要となる最大の理由は、お口の中の環境が時間とともに変化していくからです。入れ歯は人工物ですが、支えている歯ぐきや骨は生きた組織です。歯を失うと、咬む力が骨にかからなくなり、その部分の骨がゆっくりと吸収されて減っていきます。そのため、最初に作ったときにぴったり合っていた義歯も、数ヶ月〜数年経つと歯ぐきの形が変わり、少しずつ浮き上がるような状態になるのです。
さらに、日々の食事や会話の動きによって義歯にわずかなズレが生じ、歯ぐきに当たる位置や力のかかり方も変化していきます。その結果、部分的に強く当たる部分ができ、痛みや口内炎を起こすこともあります。こうした微妙な変化を整えるのが「義歯の調整」です。義歯は一度作れば終わりではなく、「使いながら調整していく」ことで真価を発揮します。
義歯が合わなくなるメカニズム
義歯が合わなくなる背景には、主に「骨吸収」と「筋肉や歯ぐきの変化」が関係しています。歯を失った部分では、咬む力が直接かからなくなるため、顎の骨が徐々に痩せていきます。これは年齢に関係なく起こる自然な現象で、特に総入れ歯の方では顎の形そのものが変化していくこともあります。
また、義歯を支える粘膜は柔らかく、日々の咀嚼で圧力を受けています。義歯の裏側と歯ぐきの間には微妙な空間ができやすく、そこに食べかすや空気が入り込むことで「浮く」「カタカタする」と感じるようになります。さらに、咬み合わせのバランスが崩れると、一部の歯だけに負担がかかり、顎の筋肉にも余分な緊張が生まれます。
このような状態を放置すると、顎関節の痛みや頭痛、肩こりといった全身の不調につながることもあります。義歯は単なる“もの”ではなく、口全体のバランスの中で機能しているため、細やかな調整が必要なのです。
調整の頻度と通院の目安
義歯の調整は「違和感が出てから行くもの」ではなく、「定期的に確認するもの」です。新しい義歯を作ったばかりの頃は、1〜2週間ごとに微調整を行うことが一般的です。使用しながら噛み癖や筋肉の使い方が変化するため、細かな調整が欠かせません。
安定して使えるようになってからも、半年から1年に一度はチェックを受けることをおすすめします。特に体重の変化や、歯ぐきが痩せた感覚がある場合は、早めの受診が望ましいです。義歯の裏側に「リライン」と呼ばれる裏打ち材を追加してフィット感を取り戻すこともできます。
また、部分入れ歯の場合は、残っている歯の状態も時間とともに変化します。支えとなる歯がぐらついたり、虫歯になったりすると、義歯全体の安定性にも影響します。定期的なメンテナンスを受けることで、快適な状態を長く維持することができます。
義歯を長持ちさせるための工夫
義歯を長く快適に使うためには、日常のケアと取り扱いも大切です。まず、就寝前には必ず外して清掃し、専用の義歯ブラシで食べかすや汚れを落とします。熱湯や漂白剤は変形や変色の原因になるため避け、義歯専用の洗浄剤を使うことが望ましいです。
また、就寝中は歯ぐきを休ませる意味で義歯を外すのが基本ですが、顎や舌の動きのリハビリとして、医師が装着を指示するケースもあります。そのため、自己判断で使用を中止せず、定期的に歯科医師のチェックを受けることが重要です。
さらに、義歯を落としたり乾燥させたりすると、変形やひび割れの原因になります。外した後は必ず水か洗浄液につけて保管してください。こうした毎日の丁寧な扱いが、義歯の寿命を大きく左右します。
痛みや違和感を放置するとどうなるか
「少し痛いけど我慢できるから」と調整を後回しにしてしまう方も多いのですが、それは非常に危険です。合わない義歯を使い続けると、歯ぐきが傷ついて炎症や潰瘍を起こし、ひどい場合には感染して腫れ上がることもあります。また、咬み合わせがずれることで、顎関節に負担がかかり、口が開けにくくなったり、頭痛を引き起こすこともあります。
さらに、義歯が不安定だと咀嚼効率が低下し、食事をよく噛めなくなります。その結果、消化不良や栄養不足につながり、全身の健康にも悪影響を及ぼすおそれがあります。義歯のわずかな不具合が、実は体全体の不調につながることもあるのです。
痛みや違和感を感じた時点で早めに調整すれば、数分の処置で快適さを取り戻せることも多くあります。少しでも「合わない」「外れやすい」と感じたら、遠慮せず歯科医院を受診してください。
義歯は「作ること」がゴールではなく、「使い続けられること」が本当の目的です。お口の中の変化に合わせて調整を重ねることで、長く快適に使うことができます。違和感を我慢せず、定期的な点検とケアを心がけましょう。
歯科医師 院長 矢端 恆秋
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